二次性頭痛について
軽い頭痛で歩いて外来を受診し、くも膜下出血と診断され緊急手術となった患者さんを、脳神経外科医や救急医は何人も経験しています。
当院では問診や身体所見から上記疾患を疑った場合は、血液検査やMRIを用いて診断を行い、手術などの入院加療が可能な病院へ速やかにご紹介いたします。
代表的な二次性頭痛には下記のようなものがあります。
硬膜下血腫・硬膜外血腫・脳挫傷
頭部外傷の受傷当日は問題なく経過したとしても、翌日以降に頭痛が続く場合があります。このような場合に、非常に少量ですが、頭蓋内出血を生じている場合がありますので、念のため、画像検査をお受けになることとお勧めします。
特に、コンタクトスポーツである、ラグビー・サッカー・柔道・ボクシングなどのあとで、頭痛が継続する場合は、頭蓋内出血の有無をきちんと確認しておく必要があります。
予約でもよいので、このようなスポーツをされたあとに頭痛が2日以上続く場合は、画像検査をした方がよいと思われます。
頻度は少ないですが、セカンド・インパクト症候群といって、一度目の頭部外傷があって、二度目は一度目より軽い頭部外傷でも、急性の脳浮腫を生じる場合があることが知られてきており、コンタクトスポーツでは特に注意が必要です。
頚椎捻挫
頭部外傷直後には特に問題がなくても、数時間もしくは翌日以降になって、肩から首の痛みが出現することがあります。運動麻痺や感覚障害もなければ多くは頚椎捻挫(むち打ち)をきたしていることが多いです。
頚椎捻挫は頭蓋内疾患等がないことを確認するため、頭部の精査が必要です。頚椎捻挫は、受傷後から1~2週間はなるべく無理をしないことが、症状を長引かせないために、最も重要です。具体的には、両手に荷物をもって移動しない、頭を後に向けて一定時間固定するような動作(美容室でのシャンプーなど)を避けることが重要です。
しびれ症状を伴っている場合は、頚椎ヘルニアを合併している可能性もあるため、頚部の検査も受けた方が良いです。
慢性硬膜下血腫
頭部外傷受傷当日の検査で出血性病変がなくても、一部の人が1〜3か月の経過で、徐々に脳と骨との間に液状の血液がゆっくりと貯留して、脳を圧迫して症状を出します。頭痛が最も出現しやすいですので、頭部外傷後1か月経過して頭痛が数日続くといった場合は念のため、画像検査を受けた方がよいです。
このように遅れて脳と頭蓋骨との間に液状の血腫が貯留する疾患を慢性硬膜下血腫といいます。この疾患は早期に発見されれば外科的手術で極めてよくなる疾患ですので、頭部外傷後1から3か月の経過で、上記のような症状が続く場合は病院を受診しましょう。高齢者と大酒家に多いと言われていますが、特に疾患のない方でも起こり得ます。
くも膜下出血
脳とその周りにあるくも膜との間に「くも膜下腔」というスペースがあります。脳動脈はその空間を走行しており、その動脈にできた瘤が破裂し出血をおこした状態がくも膜下出血です。
勢いよく出た出血は痛みを感知する硬膜を刺激するため、突然の激しい頭痛がおこります。患者さんが何時何分に痛みが起こったと正確に把握していることも多いです。頭痛の部位は定まってはいないですが、もともと頭痛持ちの人でも、今までに感じたことのない頭痛と表現することが多いです。
くも膜下出血を発症した患者さんは、1/3は歩いて帰れるが、1/3は重い後遺症を残し、残りの1/3は命を落とすと言われます。医学や治療法の進歩でこの数字は変化してきてはいるものの、恐ろしい病気であることに変わりはありません。
まれに軽い頭痛で発症し、歩いて外来を受診される方もいらっしゃいます。
なるべく早い医療機関受診、画像検査をおすすめします。
脳腫瘍
脳腫瘍ができると、頭蓋内の圧が高くなることで頭痛を生じることがあります。
寝ている状態では、重力の影響で頭蓋内の圧が低下していないため、その分頭蓋内圧が上がりやすくなっていることが多く、脳腫瘍のよる頭痛は、特に起床時の頭痛がおきることが多いです。
さらには、腫瘍ができている場所によっては、手足の動きが悪くなったり、しゃべりにくくなったり、忘れっぽくなったりといった頭痛以外の症状も出現することがあります。
毎朝、頭痛があって、起きあがって数時間で少し改善するなどという症状が続いている場合は、画像検査をおすすめします。
また、下垂体腫瘍がある場合、腫瘍内出血をおこすと、頭痛と目が見えにくくなる症状が突然おこることもあります。
動脈解離
首の後ろから後頭部にかけて起こる激しい痛みの原因の一つに、椎骨動脈の異常があります。この痛みは突然発生し、痛みの場所は右か左に偏ります。
椎骨動脈は左右一対あり、首の骨の中を通って頭蓋骨に入り、最終的に脳に血液を送ります。椎骨動脈に異常が起こると、血管壁の中で出血が発生し、壁に裂け目ができることがあります。これは「動脈解離」と呼ばれます。
出血部分が血管の内側に突出すると、血流が滞ります。逆に血管の外側に突出すると、瘤のようになり、これが破裂すると周囲に出血を起こします。この瘤を「解離性動脈瘤」と言います。日本人では、椎骨動脈の解離が頭蓋骨内で起こることが多く、その場合、外側への出血はくも膜下出血を引き起こします。一方、血管の内側に突出すると、血流が障害されて脳梗塞を引き起こすことがあります。特に「延髄」と呼ばれる脳の部分に梗塞が起きることが多いです。この場合、めまいやふらつき、声がかすれる、物が飲み込みにくい、体の感覚がおかしいといった症状が現れます。
首の後ろから後頭部にかけて起こる激しい痛み頭痛が現れた場合は、できるだけ早く神経内科や脳神経外科の専門医がいる医療機関を受診してください。
椎骨動脈の解離は、40-50歳代を中心とした比較的若い世代に多く見られます。
原因として、首の無理な伸展やマッサージなどの物理的刺激があります。中には、打ち上げ花火を見上げた瞬間に発症した例もあります。
診断にはMRIをはじめとした画像検査が非常に重要です。
側頭動脈炎
側頭動脈炎は、50歳を過ぎてから初めて発症することが多い持続性の頭痛が特徴です。痛みの感じ方や強さは様々ですが、通常は特定の場所に集中します。耳の横からこめかみにかけてある「浅側頭動脈」に炎症が起こることが多いため、この病気は側頭動脈炎と呼ばれます。痛む場所はこめかみの辺りが最も多いですが、後頭部や耳、顎が痛くなることもあります。
さらに、目に行く血管に炎症が起こると、急に視力が失われることがあります。この病気は、微熱や全身倦怠感、手足の痛みを伴うこともあります。血液検査では、血沈(赤血球沈降速度)が異常に高くなります。また、超音波検査で血管の炎症による狭窄を確認できることがあります。確定診断のためには、炎症を起こした血管の一部を取り(生検)、顕微鏡で確認する必要があります。
側頭動脈炎の治療は、一般的には入院が必要ですが、ステロイドという薬を使うと痛みは数日で消えることもあります。しかし、痛みが消えても病気が再発しないように、ステロイドを半年から1年かけてゆっくり減らします。
欧米では、この病気は500人に1人の割合で発症するほど一般的ですが、日本では珍しいため見逃されることがあります。何ヶ月にもわたってひどい頭痛に悩まされ、原因が分からないと言われて困っている年配の方は、この病気について病院で相談することをおすすめします。
危険な頭痛のサイン
下記の項目が当てはまると二次性頭痛の可能性があると言われています。
- 01
発熱を含む全身症状
- 02
新生物の既往
- 03
意識レベルの低下を含めた神経脱落症状または機能不全
- 04
急または突然に発症する頭痛
- 05
50歳以降に発症する頭痛
- 06
頭痛パターンの変化または最近発症した新しい頭痛
- 07
姿勢によって変化する頭痛
- 08
くしゃみ、咳、または運動により誘発される頭痛
- 09
乳頭浮腫
- 10
痛みや症状が進行する頭痛、非典型的な頭痛
- 11
妊娠中または産褥期
- 12
自律神経症状を伴う眼痛
- 13
外傷後に発症した頭痛
- 14
HIVなどの免疫病態を有する患者
- 15
鎮痛薬使用方もしくは薬剤新規使用に伴う頭痛
上記のそれぞれの項目は下記のような疾患を想定して作成されています。
- 01
髄膜炎、脳炎、脳膿瘍、巨細胞性動脈炎など
- 02
悪性腫瘍の脳転移(肺癌、乳癌、悪性黒色腫が多い)
- 03
脳出血、脳梗塞などの脳卒中
- 04
くも膜下出血、脳静脈洞血栓症、低髄液圧症候群、可逆性脳血管攣縮など
- 05
脳卒中、巨細胞性動脈炎など
- 06
脳静脈洞血栓症、悪性腫瘍の脳転移など
- 07
低髄液圧症候群、頭蓋内圧亢進など
- 08
キアリ奇形、後頭蓋窩病変など
- 09
脳腫瘍など
- 10
脳静脈洞血栓症など
- 11
子癇前症、下垂体卒中、硬膜外麻酔による髄液漏出症、静脈洞血栓症、可逆性脳血管攣縮など
- 12
海綿静脈洞・下垂体・後頭蓋窩病変、緑内障などの眼疾患
- 13
頭蓋内出血など
- 14
日和見感染症など
- 15
薬物使用過多による頭痛、薬剤性頭痛、物質の離脱による頭痛など