「片頭痛は、何度も繰り返していると脳に影響するのでしょうか?」

 

頭痛外来では、このような質問をいただくことがあります。

 

片頭痛は単に「頭が痛くなる病気」ではありません。近年のMRI研究から、片頭痛を繰り返している人、特に頭痛の頻度が多い慢性片頭痛の患者さんでは、脳の一部に「鉄の沈着」と関連する変化がみられることが報告されています。

 

ただし、最初に大切なことをお伝えします。

 

片頭痛があるから脳がどんどん壊れていく、という意味ではありません。

 

また、食事から鉄を摂ることが原因という話でもありません。

 

今回は、医学雑誌『Neurology』に掲載された研究を中心に、片頭痛の慢性化と脳内の鉄について、患者さん向けにわかりやすく解説します。

 

 

 

「慢性片頭痛」とは?

片頭痛は、人によって頭痛が起こる頻度が大きく異なります。

 

月に1〜2回程度の人もいれば、ほぼ毎日のように頭痛がある人もいます。

 

国際頭痛分類(ICHD-3)では、

 

月15日以上の頭痛が3か月以上続き、そのうち月8日以上に片頭痛の特徴がある

 

場合を「慢性片頭痛」としています。

 

最初は月に数回だった片頭痛が、徐々に増えて慢性片頭痛へ移行することがあります。これを片頭痛の慢性化と呼びます。

 

 

慢性片頭痛では脳に「鉄」が多い?

2019年、米国神経学会の医学雑誌『Neurology』に興味深い研究が発表されました。

 

研究では、

  • 慢性片頭痛:55人

  • 反復性片頭痛:57人

  • 頭痛のない人:25人

 

を対象として、3テスラMRIを用いて脳内の鉄沈着を調べました。

 

その結果、慢性片頭痛の患者さんでは、中脳水道周囲灰白質(PAG)と呼ばれる部分と赤核に、反復性片頭痛や頭痛のない人よりも多くの鉄沈着が認められました。

 

特にPAGでは、

頭痛のない人 → 反復性片頭痛 → 慢性片頭痛

という順番で鉄沈着が多くなる傾向が認められました。

 

 

PAGとはどんな場所?

PAG(中脳水道周囲灰白質)は、脳の深いところにある小さな領域です。

 

ここは私たちが痛みを感じたときに、痛みを調節したり抑えたりする神経ネットワークに関係しています。

 

そのため研究者は、片頭痛発作を長期間繰り返すことでPAGの働きや環境に変化が生じ、それが片頭痛の慢性化と関連しているのではないかと考えています。

 

実際、『Neurology』の研究ではPAGの鉄沈着と、血管内皮機能や血液脳関門(BBB)の変化に関連する血液マーカーとの関連も認められました。

 

ただし、ここには重要な注意点があります。

 

 

「鉄がたまるから片頭痛が慢性化する」とはまだ言えません

この研究だけでは、

 

鉄沈着 → 片頭痛が慢性化する

 

のか、

 

片頭痛を長期間繰り返す → 鉄沈着が増える

 

のかは分かりません。

 

あるいは、その両方に共通する別の脳内変化をMRIで捉えている可能性もあります。

 

『Neurology』誌上でも、この結果について「鉄沈着が原因なのか、結果なのか、あるいは単なる関連なのかはまだ分からない」と議論されています。

 

したがって、

 

「片頭痛が多いから脳に鉄がたまって危険」

 

と考える必要はありません。

 

 

その後の研究でも同様の変化が報告されています

研究はその後も続いています。

 

2023年に『BMC Medicine』に発表された研究では、片頭痛患者200人と健常者41人を、QSM(定量的磁化率マッピング)という特殊なMRI解析法で調べました。

 

片頭痛患者では、被殻、尾状核、側坐核などで鉄沈着の増加がみられ、特に慢性片頭痛では側坐核の鉄沈着が多いほど、片頭痛の進行やHIT-6、MIDAS、睡眠障害などとの関連が強いことが報告されています。

 

また2025年には、慢性片頭痛の中でも鎮痛薬などを使う日が増えた薬剤使用過多による頭痛(MOH)の患者さんで、尾状核や被殻などの鉄沈着が多かったという研究も発表されています。

 

つまり現在では、PAGだけではなく、痛み・報酬・行動などに関係する複数の脳領域と片頭痛の慢性化との関係が研究されています。

 

 

普通のMRIで「鉄沈着」を調べる必要はある?

ここも重要です。

 

現在、こうした脳内鉄沈着は片頭痛の日常診療で診断するための検査ではありません。

 

研究では3テスラMRIやQSMなどの特殊な撮像・解析方法が使われています。QSMは脳組織の磁化率を測定し、脳内鉄を定量的に評価する研究手法です。

 

したがって通常の頭部MRIを受けて、

 

「鉄沈着がないから片頭痛は大丈夫」

「鉄沈着があるから慢性片頭痛になる」

 

と判断するものではありません。

 

また、ここでいう鉄沈着は、通常のMRIでみられる脳出血や微小出血と同じものではありません。

 

 

大切なのは「頭痛の日数が増えてきた」ことに気づくこと

この研究から患者さんに最も知っていただきたいのは、「鉄」そのものよりも、

片頭痛は頻度が増えて慢性化することがある病気

という点です。

 

たとえば、

「以前は月に2〜3回だったのに、最近は週に何度も頭痛がある」

「頭痛薬を飲む日が増えてきた」

「頭痛がない日の方が少なくなってきた」

「仕事や家事、学校を休むことが増えた」

という変化があれば、一度頭痛の頻度を数えてみることをおすすめします。

 

頭痛ダイアリーやスマートフォンのアプリで、1か月に何日頭痛があるか、何日薬を飲んでいるかを記録するだけでも非常に役立ちます。

 

 

片頭痛は「我慢するしかない病気」ではありません

現在は片頭痛の治療選択肢が大きく増えています。

 

発作が起きたときの急性期治療だけでなく、頭痛そのものの頻度を減らす予防治療があります。

 

特に近年は、CGRPという片頭痛に深く関係する物質を標的とした治療薬も登場し、反復性片頭痛・慢性片頭痛のいずれについても重要な治療選択肢になっています。米国頭痛学会もCGRP標的治療を片頭痛予防の第一選択肢の一つとして位置付けています。

 

ただし、「早く治療すれば脳への鉄沈着を防げる」「鉄沈着が元に戻る」とまでは、現在の研究からは証明されていません。

 

それでも、頭痛によって生活が制限される日を減らすことは片頭痛治療の大きな目的です。

 

 

まとめ

片頭痛と脳内鉄沈着について、現在分かっていることを整理すると、

 

  • 慢性片頭痛ではPAGなどに鉄沈着と関連するMRI変化が多いという研究がある

 

  • 反復性片頭痛より慢性片頭痛で変化が大きいという報告がある

 

  • 最近では側坐核や線条体などでも同様の研究結果が報告されている

 

  • ただし「鉄沈着が片頭痛を慢性化させる」という因果関係は証明されていない

 

  • 食事の鉄分を減らす必要はない

 

  • 現時点では通常診療で鉄沈着を測定して片頭痛を診断する検査ではない

 

ということになります。

 

片頭痛は、長く付き合ううちに「これくらいなら仕方がない」と慣れてしまうことがあります。

 

しかし、頭痛の回数が以前より増えていること自体が、治療を見直すサインになることがあります。

 

頭痛が月に何日あるのか、痛み止めを月に何日使っているのかを一度確認してみてください。

 

頭痛の頻度が増えている場合や、これまでとは違う頭痛が出てきた場合には、頭痛外来・脳神経外科などでご相談ください。

 

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参考文献

Domínguez C, et al. Iron deposition in periaqueductal gray matter as a potential biomarker for chronic migraine. Neurology. 2019;92:e1076-e1085.