はじめに

頭痛やめまいなどでMRIを受けたとき、
「脳に海綿状血管腫(かいめんじょうけっかんしゅ)があります」と言われて驚かれる方がいます。

聞き慣れない名前ですが、実は脳の血管のかたまり(奇形)であり、
ほとんどの方では良性で、経過観察のみで問題ない
ことが多い病気です。

この記事では、脳神経外科医が最新のエビデンスにもとづいて、
「海綿状血管腫とは何か」「治療が必要なケース」「経過観察のポイント」についてわかりやすく解説します。

 


🧠 海綿状血管腫とは?

海綿状血管腫(Cavernous Malformation / Cavernoma)は、
脳の中で毛細血管が異常に集まってできた小さな血管の塊です。

内部は血液の流れが遅く、スポンジのように小さな血のう(血管の袋)がたくさん集まった構造をしています。
そのため「海綿状」という名前がついています。

MRIでは**“ポップコーン状”**の形をしており、
古い出血のあと(ヘモジデリン)が周囲に黒く写るのが特徴です。

 


👀 どれくらいの人にあるの?

近年のMRI検査の普及で、偶然見つかるケースが増えています。
海外・日本の報告を合わせると、**およそ200人に1人(0.5%前後)**が持っているとされます。

つまり、特別な珍しい病気ではありません。
多くの人は一生、症状を出さずに過ごします。

 


⚡ 症状が出るのはどんなとき?

ほとんどの海綿状血管腫は無症状ですが、
まれに以下のような症状が出ることがあります。

  • 繰り返す頭痛

  • けいれん(てんかん発作)

  • 手足のしびれ、力が入りにくい、言葉のもつれ

  • めまい、ふらつき

これらは主に小さな出血周囲の脳への刺激が原因と考えられています。

 


💉 出血のリスクは?

「出血すると怖いのでは?」という不安を持つ方も多いと思います。

ただし、エビデンスでは次のように報告されています。

  • 偶然見つかっただけ(出血なし):年間出血率 約0.5〜1%

  • 一度出血したことがある場合:年間出血率 約4〜6%
    (Mouchtouris N et al., Neurosurg Focus 2015)

つまり、出血のない病変はほとんど出血しないのが現実です。
また、脳幹(橋・中脳)など深い場所にある病変ではやや高リスクとされています。

 


🩻 検査と経過観察

MRIが最も有用です。
特にT2*やSWIという撮影法で、血液の成分(ヘモジデリン)を黒く描出することで診断されます。

血管造影(MRA・DSA)では映らないことが多いため、
「MRIでしか見つからない血管異常」といえます。

無症状で見つかった場合は、半年〜1年に1回のMRIで経過をみることが一般的です。

 


🏥 治療が必要なケース

多くの場合は「治療せず経過観察」で問題ありませんが、
以下の場合には手術などを検討します。

  1. 出血を繰り返している

  2. けいれん発作がコントロールできない

  3. 神経症状を繰り返す

浅い位置にある病変は外科的に摘出可能ですが、
脳幹などの深部ではリスクと利益を慎重に比較して判断します。

放射線治療(ガンマナイフなど)も選択肢になりますが、
現時点では出血抑制効果のエビデンスは限定的です。

 


🌿 日常生活と注意点

無症状の場合、普段の生活に特別な制限は必要ありません。

  • 普通の運動・旅行・飛行機もOK

  • 妊娠・出産も基本的に問題なし(Gross & Du, Neurosurgery 2017)

  • 強い頭部外傷を避ける

  • 睡眠不足や飲酒のしすぎはけいれんを誘発することがあるため注意

安心して生活していただけます。

 


🧭 当院での対応

当院(姫路駅前みどり脳神経外科クリニック)では、
MRIによる**詳細な画像診断(T2*, SWI, FLAIR, DWIなど)**を行い、
出血の有無やリスク評価を丁寧に説明しています。

また、必要に応じて脳神経外科専門医による
大学病院・基幹病院への紹介も行っています。

「海綿状血管腫がある」と言われて不安な方は、
一度MRI画像をお持ちのうえ、ご相談ください。

 


📝 まとめ

  • 海綿状血管腫は「血管の塊」で、良性のことがほとんど。

  • 出血していない場合、年0.5〜1%ほどしか出血しない。

  • MRIで定期的にフォローすれば、多くは問題なく過ごせる。

  • 治療が必要なのは、出血や発作を繰り返す場合のみ。

  • 妊娠・出産・運動も基本的に制限なし。


姫路駅前みどり脳神経外科クリニックでは、
「不安を安心に変える丁寧な説明」を大切にしています。
MRIの画像を見ながら、今後の経過や生活の注意点をわかりやすくお伝えします。

 


参考文献

  • Mouchtouris N, et al. Neurosurg Focus. 2015;38(3):E2.

  • Akers AL, et al. Lancet Neurol. 2017;16(8):630–640.

  • Gross BA, Du R. Neurosurgery. 2017;80(6):840–849.

  • Park JH, et al. Acta Neurochir (Wien). 2020;162(10):2493–2503.