ビエプチ(一般名:エプチネズマブ、海外製品名:Vyepti)は、片頭痛予防に用いる抗CGRPモノクローナル抗体です。

 

2026年9月16日、ルンドベックは日本での製造販売承認取得を発表しました。

 

本記事では、ビエプチの作用機序、効果、副作用、既存治療との違いを、主要なランダム化比較試験(RCT)に基づいて解説します。国内承認発表

 

 

ビエプチの作用機序と投与方法

エプチネズマブはCGRPそのものに結合するヒト化モノクローナル抗体で、CGRPによる受容体の活性化を阻害します。特徴は静脈内投与であることです。皮下投与とは薬物動態が異なり、投与後早期の効果が臨床試験で検証されています。

米国では通常100mgを12週間ごとに約30分かけて点滴静注し、一部の患者では300mgが選択されます。主要試験でも100mgと300mgが評価されていますが、試験用量・海外用法と国内承認用法は区別が必要です。国内での処方に際しては、最新の電子添文で用量、投与間隔、投与方法を確認してください。米国製品情報

 

 

エプチネズマブの予防効果を示すPROMISE-1・2

反復性片頭痛を対象としたPROMISE-1では、治療開始前の月間片頭痛日数(MMD)は平均約8.6日でした。投与後1~12週のMMD変化は、100mg群−3.9日、300mg群−4.3日、プラセボ群−3.2日で、両用量の有効性が示されています。PROMISE-1

 

慢性片頭痛を対象としたPROMISE-2でも、100mg・300mgの予防効果が確認されました。ただし、治療前後の改善にはプラセボ群にも認められる変化が含まれます。「投与後に何日減ったか」と「プラセボより何日多く減ったか」を分けて読むことが重要です。PROMISE-2

 

 

日本人を含むSUNRISE試験の結果

国内診療への適用を考えるうえで重要なのが、2025年に報告されたSUNRISEです。慢性片頭痛患者983例を無作為化し、978例に投与しました。このうち日本人は305例でした。

 

主要評価項目である1~12週のMMD変化は以下のとおりです。

投与群MMDの変化プラセボとの差
100mg−7.2日−2.4日
300mg−7.5日−2.7日
プラセボ−4.8日―

 

両用量とも主要評価項目と主要な副次評価項目を達成しました。

 

日本人を含む集団でも有効性が示されたことは、ビエプチの位置づけを考える根拠になります。

 

ただし、表は試験全体の成績であり、日本人だけの結果ではありません。

 

また、MMDの平均変化だけでは個々の反応を捉えきれません。

 

50%以上・75%以上の減少を達成した患者の割合や、急性期薬の使用、生活機能の変化も併せて確認すると、患者への説明に役立ちます。SUNRISE

 

 

既存の予防治療で効果不十分な患者へのDELIVER

DELIVERは、予防治療2~4剤の失敗歴を持つ片頭痛患者891例を対象としたRCTです。

 

1~12週のMMD変化は100mg群−4.8日、300mg群−5.3日、プラセボ群−2.1日。プラセボとの差はそれぞれ−2.7日、−3.2日でした。

 

従来の予防治療で十分な効果や忍容性が得られなかった患者に、エプチネズマブを検討する根拠となります。

 

一方、この結果を、そのまま「他のCGRP抗体が無効だった患者にも有効」と解釈することはできません。

 

切り替えの効果は、切り替え患者を対象とした研究で評価する必要があります。DELIVER

 

 

MOHに対する最新データ:RESOLUTIONとSUNLIGHT

2026年のRESOLUTIONは、慢性片頭痛と薬剤の使用過多による頭痛(MOH)を合併する608例を無作為化した試験です。

 

両群に標準化した短時間の患者教育を行い、エプチネズマブ100mgとプラセボを比較しました。

 

主要評価期間の1~4週におけるMMD変化は−6.9日対−3.7日で、群間差は−3.2日(95%信頼区間−4.2~−2.2)。

 

患者教育にエプチネズマブを追加する効果が示されました。RESOLUTION

 

一方、主にアジア人の慢性片頭痛・MOH患者193例を対象としたSUNLIGHTでは、1~12週のMMD変化の群間差は−1.2日、p=0.1484で、主要評価項目を達成していません。

 

MOHへの評価には、この陰性結果も含めるべきです。また、RESOLUTIONは患者教育を併用しており、急性期薬の使用状況の確認や説明が不要になるわけではありません。SUNLIGHT

 

 

ビエプチの効果はいつから現れるのか

SUNRISEでは投与翌日から群間差を認めました。発作中に投与したRELIEF試験では、頭痛消失までの中央値がエプチネズマブ群4時間、プラセボ群9時間でした。

 

これらは早期の作用を支持しますが、全患者で翌日に頭痛が消失することを意味しません。また、RELIEFだけで通常の急性期治療としての位置づけや、トリプタンに対する優越性が確立したわけではありません。SUNRISE・RELIEF

 

 

エプチネズマブの副作用と既存薬との違い

安全性では、過敏症と点滴に関連する反応への対応が重要です。DELIVERでは300mg群にアナフィラキシー反応が2例報告されています。現在の米国製品情報では、重篤な合併症を伴う便秘、高血圧、Raynaud現象にも注意が示されており、国内の電子添文と照合する必要があります。DELIVER・米国公式安全性情報

 

既存のCGRP抗体やゲパントとの比較では、投与経路、投与頻度、患者の希望、通院負担を考慮します。ここで紹介したRCTは主にプラセボとの比較であり、他剤に対する優越性を示すものではありません。300mgが数値上良好でも、100mgより明確に優れると断定できない点にも留意します。

 

臨床では、投与前後のMMD、急性期薬使用日数、HIT-6などを同じ条件で記録し、生活への支障と副作用も合わせて評価したいところです。ビエプチを選ぶ際は、臨床試験の結果と患者ごとの治療継続のしやすさを結びつけて判断することが大切です。

 

まだ薬価や使用可能開始時期は不明ですが、今後さらに片頭痛の治療の選択肢が増えることになります。

 

 

当院のご予約はこちらから

 


参考文献・情報源

  1. Lundbeck. 日本におけるVyeptiの製造販売承認発表(2026年9月16日)。メーカー発表

  2. Lundbeck. VYEPTI米国医療者向け情報。投与・薬物動態/用量・臨床試験情報

  3. Ashina M, et al. PROMISE-1. Cephalalgia. 2020;40:241–254. doi:10.1177/0333102420905132

  4. Lipton RB, et al. PROMISE-2. Neurology. 2020. doi:10.1212/WNL.0000000000009169

  5. Yu S, et al. SUNRISE. Cephalalgia. 2025. doi:10.1177/03331024251386095

  6. Ashina M, et al. DELIVER. Lancet Neurol. 2022;21:597–607. doi:10.1016/S1474-4422(22)00185-5

  7. Jensen RH, et al. RESOLUTION. Neurology. 2026;106. doi:10.1212/WNL.0000000000214863

  8. Yu S, et al. SUNLIGHT. BMC Neurol. 2023;23:441. doi:10.1186/s12883-023-03477-z

  9. Winner PK, et al. RELIEF. JAMA. 2021;325:2348–2356. doi:10.1001/jama.2021.7665

  10. Lundbeck. VYEPTI米国公式安全性情報(2026年9月確認)。安全性情報