薬物使用過多による頭痛(MOH: Medication Overuse Headache)は、片頭痛や緊張型頭痛などの既存の頭痛を抑えるために鎮痛薬を過度に使用することで、かえって頭痛が慢性化し、治療が困難になる状態です。
 
MOHは、国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)によると、「少なくとも3か月間、1か月に10~15日以上の頻度で鎮痛薬、トリプタンなどの頭痛治療薬を使用した結果、頭痛が悪化または持続する状態」と定義されています。
薬物使用が過剰になることで、本来の頭痛に加えて薬の影響による頭痛が発生し、患者の生活の質が著しく低下することがあります。
 
MOHの発症リスクは、使用する薬の種類や期間、元々の頭痛のタイプによって異なります。例えば、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンの過剰使用は、緊張型頭痛を悪化させることが多く、トリプタンやエルゴタミンの過剰使用は片頭痛の悪化につながることが知られています。
2010年以降の研究では、片頭痛患者の約半数が薬物使用過多に陥るリスクがあることが示されており、特に自己管理で薬を頻繁に使用する人が注意すべき点とされています(Russell et al., 2014; Schwedt, 2013)。
 
MOHの治療は、過剰使用している薬の中止または減量が基本です。
しかし、急に薬を中止することは離脱症状や一時的な頭痛の悪化を引き起こすため、医師の指導のもとで段階的に行うことが推奨されます。
特に、片頭痛や緊張型頭痛を持つ患者にとっては、適切な予防薬の使用やライフスタイルの改善が長期的な頭痛管理において重要です(Kristoffersen & Lundqvist, 2014)。
 
また、MOHの予防には、患者自身が薬物の使用頻度を管理することが大切です。
2010年以降の複数の論文によると、患者教育プログラムや医療従事者のサポートが、薬物使用過多を防ぐ効果的な方法とされています(Loder, 2010)。
MOHを未然に防ぐために、鎮痛薬の使用は月に10日以内に制限し、薬を使用する前に、頭痛日記などで頭痛の頻度やパターンを記録することが有効です。